2019年6月3日に金融庁の金融市場ワーキング・グループが「高齢社会における資産形成・管理」報告書を発表しました。
私達ファイナンシャルプランナー(FP)にとっては既知の情報ですし、日頃から講演の機会等でよく話していることでもあるため、とくに発表された内容について目新しいものはありませんでした。
しかし、野党が政争の道具に利用しようとしたことや、麻生財務大臣が「報告書は受け取らない」と言い出してしまったこともあって大きな騒ぎになってしまいました。
とくに日頃から金融・経済に関心が薄い方にとっては大変なニュースだったのか、この問題はテレビのニュースでも大々的に報道されましたね。
朝日新聞などの新聞社各社は一面トップにこのニュースを持ってきて報じていましたし、YAHOO!ニュースなどでもコメント数第1位になっていたので、ご覧になった方も多いと思います。
「高齢社会における試案形成・管理」に書かれていること(概要)
その中で私が最も驚いたのは、YAHOO!ニュースのコメントで政府を非難するようなコメントがたくさん書かれていたことです。
近年個人型確定拠出年金の対象者拡大や、NISA・つみたてNISA等の非課税制度の創設等が行われましたが、なぜ政府がこのような制度を次々と打ち出していくのか、その背景まで考えれば、今更騒ぐほどのことでもなんでもないと思うからです。
それでは「高齢社会における試案形成・管理」報告書にはどういったことが書かれているのでしょうか?
ざっくりと簡潔にまとめてしまうと、このような内容です。
【「高齢社会における試案形成・管理」の記載内容】
①これまでのような年金はもう期待できない
「公的年金だけでは望む生活水準に届かないリスク」の部分で、少子高齢化が進む現状では、今までと同等の年金の給付水準を維持することは期待できないことが示されています。
②元気なうちは働きましょう
日本の高齢者は元気で、思考レベルが高いそうです。体力レベルは過去の高齢者と比べると高い水準にあり、2016年のデータでは65歳から69歳の男性の55%、女性の34%が働いていているとのこと。
また、60歳から69歳でインターネットを使っている人が全体の4分の3いて、これはOECD諸国の40代後半のレベルと変わらないそうです。
つまり日本の高齢者は体力的に元気で、しかも思考レベルも衰えていないのだから、70歳程度までしっかりと働いてくださいということです。
③退職金はあまり期待できません
退職金給付制度がある企業の割合は年々減っており、2018年で約80%。
また、定年退職者の退職給付額は平均1,700万円~2,000万円程度で、ピーク時から3~4割減少。
④長期・積立・分散投資が好ましい
投資の基本である「長期投資」「積立投資」「分散投資」の有効性について、データに基づいて紹介されており、長期・積立・分散投資は「リスクをコントロールし、一定のリターンをもたらしやすい点で、多くの人にとって好ましい資産形成のやり方である」としています。
⑤金融リテラシーの向上
金融リテラシーとは、社会人として金融に関する知識や情報を正しく理解し、自らが主体的に判断することのできる能力のことです。
簡単に言えば「お金の知識」ということになりますね。
社会人として正しいお金の知識を身に付けて、確定拠出年金やNISA・つみたてNISAの制度等を活用しながら、自分で老後資金を準備していくことが基本線で、もしも自分で行うことが難しい場合は、信頼のできるアドバイザーを見つけて、アドバイスをもらいながら投資を行って準備をしてくださいということが書かれています。
このように公的年金はこれまでのようには期待できませんし、退職金も減っているため、なるべく長く働いて稼ぐことと、ライフプランに合わせて上手に資産運用を行い、国民の皆様の自助努力でなんとかしてくださいというのが、今回の報告書の内容です。
これはお金の知識を持っている方にとっては、目新しい情報でもなんでもないですね。
このような内容の発表にもかかわらず、年金の部分だけクローズアップされてしまったのは本当に残念なことです。
しかし、私達国民にとっては知っておくべき大切なことだと思います。
報告書のURLを掲載しておきますので、是非一度目を通してみてください。
金融庁の金融市場ワーキング・グループ「高齢社会における資産形成・管理」報告書
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf
久保 逸郎
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