前回はwithコロナにおけるREIT市場の見通しとして、オフィスセクターについて解説しました。
そこで今回は小売・住宅・物流・ホテルセクターの見通しについて触れたいと思います。
小売セクター
足元の小売セクターは大変厳しい状況になっています。
コロナ禍における外出自粛要請で、テナントの客数が激減して、経営状況の悪化が深刻であるためです。
このことはそのまま稼働率の悪化や賃料減額に直結してしまうため、REITの収益を押し下げる要因になってきます。
また、小売セクターの動向については、短期的な部分と長期的な部分で分けて考える必要があります。
短期的には新型コロナウイルスの感染拡大次第という面が強く、どの程度のレベルで営業活動を再開して、それを維持できるのかといった点が注目材料です。
そのため新型コロナウイルスの感染者数の推移を注意深く見守っていく必要があるでしょう。
一方、長期的な視点で考えれば、特に賃料減額の影響は長期間に及ぶ可能性が高いため、目先の稼働率よりもテナント賃料の動きに注意を払っていく必要があると思われます。
個人的にはこちらの影響のほうが心配ですね。
住宅セクター
一般的に個人が転居する頻度は企業のオフィス移転の頻度に比べて少なく、また、都市部の住宅は底堅い需要があるため、賃料下落リスクは比較的小さいとされています。
しかし、コロナ禍においてはこのような常識は通用しないかもしれません。
企業が今後在宅勤務・テレワークを増やしていった場合、従業員は都心にあるオフィスに毎日通勤する必要がなくなるため、わざわざ賃料が高い都市部に住むよりも、広いスペースで生活できる郊外や地方に住みたいというニーズが高まってくるのではないでしょうか。
実際にそのような動きがもう起こり始めていますし、新型コロナウイルスはそれだけ私たちの価値観を大きく変えようとしています。
例えば、一週間の間に1~2回程度出社する程度であれば、多少距離が離れているところに住んでいても通勤ストレスは少ないのではないでしょうか?
そして何よりも大きいと思うのは、在宅勤務・テレワークを行うにあたって、自宅に仕事部屋があるかどうかという点です。
オンライン会議システムを用いて仕事をする機会が増えるため、狭くてもいいから仕事に集中できる環境が欲しいというニーズが高まっており、比較的若いファミリー世代を中心に、住宅需要は都市部から郊外・地方に少しずつシフトしていくように思われます。
このような動きは、長期的に住宅型REITの賃料下落に繋がってくる可能性があります。
物流セクター
REITの中でとくに成長性が高いと見られているのが、倉庫などの物流セクターです。
新型コロナウイルスの感染拡大で巣ごもり消費が拡大し、インターネット通販の需要が増しています。
それに伴い商品を保管する倉庫の需要が高まっており、日本国内の物流系REITを例にすると、既に稼働率が100%近くに達しています。
今後の需要増加も見込めることから賃料下落圧力もほぼないと言っていい状況で、そのため物流セクターに限れば、昨年末の水準をやや上回るところまで回復しており、今後 REIT 全体の牽引役となっていくと考えられます。
ホテルセクター
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、大変厳しい状況に追い込まれているのがホテルセクターです。
今年3月の大幅調整からある程度回復してきたセクターが多い中、ホテルセクターの戻りは小幅にとどまっています。
今後もコロナ禍が落ち着いてくるまでは、ホテルセクターの厳しい状況は続くと思われるため、短期的な回復は望みにくいですね。
このタイミングを長期的な投資機会とて考えることもできるかもしれませんが、個人的には冒険のような気がします。
とくに日本国内においては東京五輪開催に向けてインバウンド需要が高まるとの期待から、都市部を中心に過剰供給の状態にあったため、ホテルセクターの回復には相当な期間がかかるのではないでしょうか。
GoToトラベルキャンペーンで一時的な回復は期待できると思いますが、しばらくはインバウンド需要の回復期待が持てないことから、一部にはホテルからの業態転換を迫られるところも出てくるでしょう。
厳選投資で変化に対応
新型コロナウイルスの影響でセクター毎に大きく環境が異なる状況では、パッシブ戦略を取るよりも、個別のREITを厳選して保有するか、またはアクティブファンドを活用したほうが良いかもしれませんね。
過去に高い配当利回りを求めた結果として、ポートフォリオのREITのウエイトが高くなってしまっている場合には、ウエイトを下げるようにしたほうがいいかもしれません。
金融緩和の影響が大きいREIT市場ですが、慎重な見方をしておいたほうが賢明だと思います。
久保 逸郎
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