国際通貨基金 (IMF )は2020年6月24日に、最新の世界経済見通しを発表しました。
IMF の世界経済見通しは世界の主要機関の予測の中でも、最も注目度が高いものです。
通常は4月と10月に発表し、1月と7月にアップデート版を発表する形になっていますが、今回6月に前倒しで発表したのは、新型コロナウイルスが世界経済に与えるマイナス影響が、事前の想定を超える大きなものになることがわかってきたためだと思われます。
世界GDP1300兆が失われる
最新の発表ではIMFは世界全体の2020年の成長率をマイナス4.9%と予想しています。
4月の時点の予想ではマイナス3%と予想していたので、この2ヶ月間の経過を見て、1.9%も下方修正したことになります。
そしてIMFは来年までの2年間で、世界全体のGDPが約12兆5千億ドル(約1300兆円)失われるという試算を示しました。
約12兆5千億ドルといわれてもピンとこないかもしれませんが、現在の日本のGDPが約5兆ドルですから、世界第3位の経済大国の2倍以上の規模に相当するものです。
これが何を表しているかというと、それだけ人々が経済活動を行うことによって稼ぐ、富が失われることを意味します(GDPのイメージができなければ、「利益」と考えてもらっても差し支えありません)。
中国が牽引する形で新興国市場が持ち直す
各国の状況はというと、世界経済の牽引役になってきた米国の経済成長率は2019年のプラス2.3%から、2020年はマイナス8%まで落ち込む見通しです。
しかし、大統領選挙での再選を狙うトランプ大統領は経済活動優先の姿勢を崩していないため、新型コロナウイルスの感染者が増え続けているにも関わらず、人々の活動を再び厳しく制限する方向には動いていません。
それに5月の米国の小売売上高が前月比17.7%増と急回復を見せたように、積極的な財政政策で、個人の懐には余裕が見える状況になっています。
そのため今後については新型コロナウイルスの感染者数の推移と、経済活動の量を注視していく必要があるでしょう。
また、4月上旬に大半の経済活動を再開した中国は、2020年の経済成長率は1%とされており、プラス圏はキープするものの、4月の予想から0.2%も引き下げられました。
中国も依然として厳しい状況であることに変わりはありません。
しかし、中国に関していえば、来年(2021年)の回復予測は8.2%とされており、IMFは中国が牽引する形で新興国市場が持ち直すと見ているようです。
また、現時点(2020年4月16日現在)では、米国に次いで新型コロナウイルスによる死者が多い欧州は、大変落ち込みが大きく、2020年の経済成長率はドイツがマイナス7.8%、フランスはマイナス-12.5%、イタリアはマイナス12.8%、スペインはマイナス12.8%で、4月の見通しから、さらに大幅に下方修正が行われました。
しかし、欧州連合(EU)は7月21日に、新型コロナウイルス対策として7500億ユーロ(約92兆円)規模の復興基金案に合意しました。
この「欧州復興基金」の設立は、単一通貨市場における金融政策を補完する共通財政政策という意味合いがあることから、長期的に見れば欧州圏の存在感を高めていくことが期待できるのではないでしょうか。
日本経済はしばらく元の経済状態に戻ることはない
日本の経済成長率は、2020年はマイナス5.8%、2021年はプラス2.4%で、いずれも4月時点の予想に比べて下方修正されています。
計算してみると理解できると思いますが、5.8%の減少分を2.4%の成長で回復したとすると、少なくとも3年程度は必要です。
つまり日本経済が元の規模に戻るのは、早くても2024年前後になるのではないかということです。
通常は経済が落ち込んだ翌年の成長率は高くなるのですが、その後は潜在成長率程度に収斂していくと考えると、元の経済規模に戻るまで7~8年程度かかったとしても不思議ではありません。
もう私達は頭を切り替えて、「しばらく元の経済状態に戻ることはない」と考えた上で、ビジネスや生活をしていく必要がありそうです。
柔軟な発想で変化に対応しなければいけない
また、今回のレポートにおいて、IMFは今後の不確実性について言及しています。
そこにはパンデミックによるロックダウンが長期化するリスク、ソーシャルディスタンスによる支出減といったことなどが書かれていますが、私が注目したのは「おそらく別業種で求職することになる失業者の再就職可能性。」という言葉です。
規模の点でそう簡単に元の経済規模には戻らないことは、先に書いた通りですが、今回の新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに失われていく仕事は多く、失業者はこれまで働いてきた仕事とは全く異なる仕事を探していく必要があるだろうとIMFは示唆しているわけです。
歴史的にこのような社会構造が大きく変わる状況では、変化に強い人が勝ち残っていきますから、私達は柔軟な発想を持ちながら変化に対応していかないといけませんね。
久保 逸郎
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